社労士会労働紛争解決センターのあっせん
民間型ADR
ADR(Alternative Dispute Resolution)は裁判外紛争解決手続きと呼ばれ、平成19年ADR法の施行以降、消費者トラブルや境界線紛争、マンショントラブルなどのトラブルを裁判ではなく話し合いで解決させるために、当事者同士の仲裁や調停を行う機関がぞくぞく生まれています。
ADR機関には行政型、司法型それに民間型の3種類があり、行政型は各省庁や自治体によるもの、司法型には家事調停や民事調停があります。それに対して民間型は法務大臣の認証を受けて民間事業者が開設しているものです。
労働分野に関して言えば、都道府県労働局によるあっせんは行政型ADR、そして社労士会によるあっせんは民間型ADRです。なお、労働審判は裁判とADRの中間に位置する制度です。
福岡県社会保険労務士会は全国社労士会で4番目に法務大臣からADRの認証を受け、平成21年11月より業務をスタートしております。なお平成22年5月10日現在、全国社労士会連合会と22箇所の都道府県社会保険労務士会が「かいけつサポート(認証紛争解決サービス)」として法務大臣の認証を受けています。(弊法人は福岡だけでなく近県にも出張して紛争解決代理人業務を行っていますのでご利用ください。 )
ただし、個別労働紛争を対象としていますので、労働組合と事業主との間の紛争はADR機関では対応できません(労働組合の支援を受けているだけなら可能です)。また、労働者と労働者のトラブルも対象となりません。(企業倒産の場合や死亡事故の場合など片方の当事者が存在しない場合も対象としていないようです。)これらについては労働審判も同じです。
「個別」労働紛争と称していますが、あくまで労働組合と企業との紛争ではないことという意味であり、複数の労働者と一企業との紛争は対象となります。紛争の内容によっては同一のあっせん期日・場所で併合して実施されることがあります。
労働局のあっせんと社労士会あっせんとの違い
たとえば解雇の案件であっせんを申請するにあたり、社労士会のあっせんを選ぶか労働局を選ぶか迷うところです。
社労士会のあっせんの長所として、
労働法に精通した弁護士一名と特定社労士資格者2名、合計3名のあっせん委員が共同で解決に向けて努力してくれる点。
あっせんの期日は1回とは限らず2回目もある。
欠点として、60万円以内の訴額の事件しか特定社労士は代理できない点です。60万円を超える事件は、弁護士と特定社労士との共同受任を条件に特定社労士は代理権を得ます。(解雇無効を争うなど地位確認事件は訴額が確定できないため便宜上160万円とされており、特定社労士単独では代理手続きや代理交渉はできません。)
一方、労働局紛争調整委員会によるあっせんの長所は、
特定社会保険労務士の交渉代理権に、申立金額の上限がない点。たとえば1000万円を超える損害賠償金を求めるあっせんであっても特定社労士が代理して交渉することができる。
あっせんの運営に一日の長があり、そつがない。
私は、ある不当解雇の事件で、解雇無効を主張する事件でしたが、私の交渉代理権・和解代理権が使える労働局のあっせんが依頼者の権利擁護の観点からふさわしいと考えました。また、そつなく運営してくれる安心感があると思いました。
福岡県社労士会の一会員として社労士会のあっせんを勧めたい気持ちが当然ありましたが、それはそれ。自分の思惑よりも依頼者の身になって考えた結果です。
民間型ADR機関において特定社会保険労務士が代理権を行使できるのは60万円以内の事件に限るなどという馬鹿げた規制を撤廃しない限り、労働局あっせんの方へ流れざるをえません。
しかし、平成22年になって私はある弁護士との共同受任による社労士会あっせんを2件経験することができました。
1件は新卒採用内定取消し事件でもう1件は退職強要の事件でしたがその2件のうち1件は和解を得ることができました。あっせんの期日の一回目で解決できなかったため2回目を開催してくれました。弁護士を含む3名のあっせん委員が粘り強く企業側を説得してくれました。相手方である企業側も弁護士をつけていたため、あたかも労働審判の法廷のようでした。要した時間は各4時間で合わせて8時間でした。
あっせん委員の3名だけでなく社労士会あっせんを運営している事務局や運営委員の方々に頭が下がる思いでした。
ある月刊誌に掲載された社労士総研主任研究員の加藤博義氏の論文をご紹介します。加藤氏は東京においてあっせん申請を代理した実績が多いことのほか、前職では労働委員会事務局員として30余年のキャリアをお持ちの社会保険労務士である。私よりはるかに経験や実績が豊富です。
都道府県労働局に寄せられる民事上の個別労働紛争に関する相談は平成20年度は22万件超だが、そのうち労働局紛争調整委員会のあっせん申請に至る件数は約3.6%の年間8500件弱に過ぎません。
加藤氏は「100人の相談者のうちあっせん申請に至らない残りの96%の人たちは本当に納得して帰られたのだろうか」と疑問視しておられます。「この労働局のケースでは、あっせん申請につなげる運用方法に検討が必要なのかもしれない」とも書かれています。
また、「社会保険労務士の役割と展望」の中で加藤氏は、あっせんに相手方が不参加であったり参加したが合意に至らなかった場合でも「打ち切り後、双方があきらめない限り、最近はそのかなりの紛争が労働審判に継続するようだ。私たちが、あっせん事件としていったん受任した事件が未解決のままでいいわけがない」と書かれています。私もまったく同感です。
「そのためにも、遠回りかもしれないが、例えば、私たちが代理人以外の形で労働審判に関与するなどして、依頼人の権利利益の保護を十分に行いうるという実績を裁判所に示すことを積み上げてく、そのことによって法改正につなげるのが早いのかもしれない」と述べておられます。
その通りだと思います。労働審判には社労士は関与できない、という考え方は短絡的すぎます。依頼人のためには、労働審判だろうと本訴だろうと後方支援または弁護士との共同受任という形を模索しながら関与していくべきだと思います。
決着するまで関与し続けることにより、依頼人から気持ちよく報酬をいただけるのです。




